向山アルドール反応 (Mukaiyama aldol addition)

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向山アルドール反応は、シリルエノールエーテルをカルボニル化合物に対して、ルイス酸の存在下で求核攻撃させるアルドール反応である。シリルエノールエーテルは安定なエノラート種であるため、交差アルドール反応における自己縮合などの副反応を抑制できる。

 

反応の概要

 向山アルドール反応は、シリルエノールエーテルを求核剤(エノラート)として用いるアルドール反応であり、1973年に向山 光昭 (むかいやま てるあき、Teruaki Mukaiyama)によって報告された。
 一般に交差アルドール反応では、求核剤となるエノラートを強塩基によって形成し、これに求電子剤としたいカルボニル化合物を加える。しかし、このような手法ではエノラートを合成する際に自己縮合が起こり得るし、求電子剤のpKaが小さい場合には副反応が進行しやすいという問題もある。このような問題を向山アルドール反応では、安定なエノラートであるシリルエノールエーテルを用いることで解決している。
 シリルエノールエーテルは水分によって徐々に加水分解され得るものの、基本的には安定で単離することが可能である。シリルエノールエーテルはケトンやアルデヒドとの互変位性を持たないため、単離されたシリルエノールエーテルは"純粋なエノラート"として扱うことができ自己縮合することはない。また、シリル基と酸素の結合は強固であるため、求電子剤のpKaが低くてもエノラートの交換が起きない。このため、求核剤と求電子剤がそれぞれ固定され副反応が抑制されている。これらの理由から、向山アルドール反応は信頼性の高い反応として多用される。
 一方で、その安定性のためにシリルエノールエーテルは求電子剤と直接反応することはできず、求電子剤のカルボニル炭素を活性化するためにルイス酸を加える必要がある。また、求電子剤となるカルボニル化合物にケトンを用いることは難しく、高い収率で目的物を得るためにはルイス酸の種類の選択が重要となる。向山アルドール反応でよく用いられるルイス酸はTiCl4であるが、目的にあわせて多種多様なルイス酸が今までに開発されている。
 立体選択性に関しては、立体反発による影響が大きくsyn体が多く得られるが、不斉触媒などを用いない場合には高い選択性を得ることが難しい場合もある。

反応機構

 
 シリルエノールエーテルはそれ自体では安定であり、求電子剤に対して攻撃することができないため、ルイス酸により求電子剤であるカルボニル化合物を活性化してやる必要がある。最も一般的に用いられるルイス酸はTiCl4(四塩化チタン、塩化チタン(IV))であるが、TiCl4を用いた場合には基質と同じ量のルイス酸が必要であることが多い。
 まずTiCl4によって求電子剤となるカルボニル化合物が活性化されると、カルボニル炭素の求電子性が向上する。この状態であると、安定なシリルエノールエーテルでも求核攻撃できるようになる。求核攻撃後はアルドールがチタン種と結合した状態となり、これを反応後の後処理で加水分解することで目的のアルドールが得られる。シリル基が酸素から外れるタイミングについては、加水分解前であるとするものと加水分解後であるとするものがあるが、生成するアルドラート(アルドールのアニオン)がチタン種をキレートすることで安定な錯体を形成できるため、対アニオンである塩化物イオンが加水分解前にシリル基を攻撃して酸素から外れると考えられている。
 
 先に示した反応機構ではルイス酸であるTiCl4は再生せず、触媒として働かないことがわかる。一方でルイス酸(LA)が触媒として作用する場合には、生成したアルドールがシリルエーテルとなることでルイス酸が生成物から離れて再び触媒として作用することができるようになる。
 
 いずれの場合においても、反応中間体は鎖状である(六員環状ではない)と考えられており、反応のジアステレオ選択性は主に立体反発によって決まると考えられている。
 
 このため、HSAB則でいう硬いルイス酸を用いた場合の不斉アルドール反応よりもジアステレオ選択性が低いことが多い。この問題を解決するために、不斉配位子を有するルイス酸触媒が複数報告されている。また、反応に用いられるルイス酸の種類も多岐にわたり、特に向山ら自身によって開発された、キラル配位子をもつスズ(II)触媒は有名である。金属カチオンのみならず、HNTf2(トリフルオロメタンスルホン酸イミド)などのブレンステッド酸も触媒として利用できることが知られている。
 

演習問題1

シリルエノールエーテルは、トリエチルアミンなどの塩基存在下で、カルボニル化合物とシリルクロリド(R3SiCl)を反応させることで合成できる。今、ブチロフェノンとトリメチルシリルクロリドからシリルエノールエーテルを合成し、これとベンズアルデヒドを用いて向山アルドール反応を行った。このとき生成する化合物を立体化学を示しながらすべて描け。また、各化合物がどの程度生成するか議論せよ。

演習問題2

一般に向山アルドール反応において、アルデヒド由来のシリルエノールエーテルを用いることは容易ではない。この理由について、下に示す反応の生成物を示しながら説明し、問題となる反応を抑制する方法について考察せよ。

演習問題3

『機構解説』の(D)に示したように、ブレンステッド酸を用いた向山アルドール反応も多く報告されている。しかし、これらの反応ではブレンステッド酸のプロトンが求電子剤のカルボニル基を活性化しているのではないと考えられている。複数の報告に基づけば、これらの反応において真の触媒種として働いているのは、R3Si-Nu (シリル基とブレンステッド酸の共役塩基が結合した化合物)であると考えられている。例えば下に示すように、Me3SiOTfはルイス酸として働いて向山アルドール反応を触媒することが知られている。このMe3SiOTfは、シリルエノールエーテルとTfOHから反応系中で合成することもできる。
これらの事実から、『機構解説』の(D)に示した、ブレンステッド酸を用いた触媒的向山アルドール反応の反応機構を推定せよ。

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